手術日+906日目 2026/8/21(金)(ティネル徴候のあれこれ)

午前の病院での仕事

今朝は小雨.
気温は, 26 ℃くらいでしたが, 涼しく感じました.

8時前に病棟に上がって, 昨日手術を行った二人の患者さん(大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭挿入術, 大腿骨転子部骨折に対する骨折観血的手術)の経過を確認.
お二人とも問題なく経過されていました.
特に, 自分が執刀した大腿骨頚部骨折の患者さんは, 血糖も高すぎず, 低すぎずで経過していました.

8時から朝の病棟回診.

8時半から, カンファランス.
今日は, 産業医の先生から, 産業医の役割や仕事内容についての講義がありました.
引き続き, 手術前カンファランス.
来週は, 8件の手術を予定しています.

9時前に外来に降りて, 27人の患者さんの診療を行いました.

腓骨神経の神経鞘腫の患者

後輩の整形外科クリニックから紹介で, 膝裏に腫瘤を生じた前期高齢患者さんが紹介されて受診されました.

10年以上前から腫瘤を自覚していましたが, 最近, 大きくなってきて, ぶつかると痛みが走るとのこと.

腓骨神経の走行のイラスト.
膝裏を通る総腓骨神経(Common peroneal n.)は, 腓骨頚部で枝分れして, 関節枝(Articular branch), 前脛骨筋筋枝(Tibialis ant. motor branch), 深腓骨神経(Deep peroneal n.), 浅腓骨神経(Superficial peroneal n,)となります.

引用元:Giuffre JL. Partial tibial Nerve transfer to the tibialis anterior motor branch to treat peroneal nerve injury after knee trauma. Clin Orthop Relat Res. 2012. 470.

総腓骨神経の走行部に腫瘤があり, 圧したり, 叩いたりすると, つま先まで放散する痛みが出る(Tinel様徴候)ことから, 神経鞘腫を疑いました.

来週, MRIを撮像して, 診断することに.

午後の病院での仕事

13時半前に手術部に.
手根管症候群に対する手根管開放術がありました.

手根管開放術の術中写真.
切離された手根横靱帯(Cut edge of transverse carpal ligament)の下に正中神経(Median nerve)が見えます.

引用元:Deak N. Anatomy, Shoulder and Upper Limb, Wrist Flexor Retinaculum. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2026 Jan. 2023 Oct 24.

今年整形外科になりたての後輩医師の執刀で, 指導的助手として参加.
後期高齢患者さんで, 長年患っていたため, 手根横靱帯がかなり肥厚しており, 切離にやや難渋しました.
少し時間がかかりましたが, 無事に終了.

ティネル徴候(Tinel’s sign)のあれこれ

神経に生じた腫瘍, 手根管症候群など末梢神経が靱帯などで圧迫されて生じる神経障害(絞扼性神経障害), あるいは外傷による神経断裂など, 神経が損傷された場合, 損傷された神経部位や神経の走行部分を叩くと, その神経が向かう先の方に痛みやビリビリした異常感覚を生じることがあります.

この痛みや異常感覚は, 発表者であるフランスの臨床医師, 神経生理学者Jules Tinel先生の名前をとって, 『ティネル徴候(Tinel’s sign)』と呼ばれます.
なお, フランス語でTinelは, 「チネル」ではなく, 「ティネル」と発音します.

Jules Tinel先生のポートレイト.

引用元:Pietrzak K. Jules Tinel (1879–1952). J Neurol. 2016. 263.

1914年からパリの『ル・マン病院』に勤務されていたJules Tinel先生(1879–1952)は, 第1次世界大戦(1914年7月〜1918年11月)に従軍し, 戦時中の1915年10月に論文『Tinel J. Le signe du ”fourmillement” dans les lésions des nerfs périphériques. Presse médicale. 1915. 47.』を発表されました.

その記述には,
『1° Dans les sections nerveuses complètes, on con¬ state sur le trajet du tronc nerveux une zone très nette où la pression détermine des fourmillements dans le territoire cutané du nerf.』
日本語訳
『1. 神経が完全に切断されている場合, 神経幹の走行に沿って非常に明瞭な領域が認められ, その部位を圧迫すると, 当該神経の皮膚支配領域にうずきやしびれ(チクチク感)が誘発される.』
とあります.
従って, Tinel先生が発表された神経損傷の徴候は, 損傷された神経を圧した際に認められる徴候です.

多くの教科書やインターネット情報などには, 神経を指などで軽く叩いた場合に生じる痛みや異常感覚のことを『Tinel徴候(あるいはTinel様徴候 Tinel like sign)』と記載されてます.

一方, ドイツ語圏では, この徴候のことを『Hoffmann-Tinel Zeichen(Hoffmann-Tinel徴候)』と記載されています.
では, なぜ, そうなっているのでしょうか.

Paul Hoffmann先生のポートレイト.

第一次世界大戦でフランスと対戦していたドイツの神経生理学者Paul Hoffmann先生(1884-1962)は, Tilen先生に先駆けること数ヶ月の1915年3月に論文『Hoffmann P. Über einen Methode, den Erfolg einer Nervennaht zu beurteilen. Med Klin. 1915. 11.』, 同年8月に論文『Hoffmann P. Weiteres über das Verhalten Frisch regenerierter Nerven and über die Methode, den Erfolg einer Nervennaht frühzeitig zu beurteilen. Med Klin. 1915. 11.』を相次いで発表されました.

Hoffmann先生の論文の挿絵.
上腕内側の損傷部位と神経縫合部(Stelle der Verletzung und Naht.), 麻痺領域に感覚を誘発させうることのできる点(Stelle, von der Emprüdung hervorgerufen werden kann, die ins anünthelische Gebiet verlegt wird.), 麻痺領域(Anäetheschen Gablet).

引用元:Hoffmann P. Über einen Methode, den Erfolg einer Nervennaht zu beurteilen. Med Klin. 1915. 11.

最初の論文では, 橈骨神経断裂を受傷した傷病兵2人に対して神経縫合後, 神経縫合部位よりも手側の前腕部を指で軽く叩くと, 橈骨神経の感覚枝の支配領域である麻痺している親指とひとさし指の間の領域にビリビリ感が誘発されて, その後, 神経の再生により運動神経の回復が認められたことから, この指で軽く叩いた際のビリビリ感が神経再生を予測できる徴候であると記述されています.
原文
『Es ist keineswegs starker Druck notwendig, um die Empfindung hervorzurufen, am allerbesten erreicht man es durch Klopfen mit dem gestreckten Finger (wie man es bei der Perkussion nicht machen soll).』
日本語訳
『その感覚を誘発するために,強い圧力をかける必要は決してありません. 最善の方法は, 指を伸ばした状態で(打診の際には避けるべきやり方で)軽く叩くことです.』

Hoffman先生の論文中の挿絵.
橈骨神経の走行部位をひとさし指の指先で叩く手技が描かれています.

引用元:Hoffmann P. Weiteres über das Verhalten Frisch regenerierter Nerven and über die Methode, den Erfolg einer Nervennaht frühzeitig zu beurteilen. Med Klin. 1915. 11.

また, 2番目の論文では, 橈骨神経の再生を確認するために, 橈骨神経の走行部位をひとさし指の指先で叩く手技が描かれています.

すなわち, 現在臨床的に用いられている『Tinel徴候』は, 最初にこの徴候と手技を報告されたHoffmann先生の名前を冠した『Hoffmann徴候』と呼ぶべきなのかもしれません.
Hoffmann先生の業績を重視しているドイツ語圏で『Hoffmann-Tinel徴候』と記述されているのは, このような理由からです.

手根管症候群で認められるティネル徴候のイラスト.

引用元:症状・病気をしらべる「手根管症候群」. 日本整形外科学会HP.

当初は, 戦時中に神経損傷を受傷した傷病兵の診療から発見されたこの『Hoffmann-Tinel徴候(Tinel徴候)』ですが, その後, 神経の腫瘍や手根管症候群などの絞扼性神経障害などの末梢神経の障害でも認められ, その際には, あえて区別のために『Tinel様徴候(Tinel like sign)』と記述されることもあります.

なお, 神経学の教科書では, 別に『Hoffmann徴候(あるいはHoffmann反射)』という記載があります.

Hoffmann徴候(反射)は, 上肢(手)の代表的な病的反射のひとつです.
患者の中指(第3指)の爪先を検者が上から下へ軽く弾いたときに, 反射的に親指(母指)と人差し指(示指)が屈曲(曲がる・内転する)する現象を指し, 見られた場合は「陽性」と判定されます.
脳や脊髄などの上位運動ニューロン(錐体路)に障害がある場合に現れやすくなります.
陽性の場合は, 頚椎症性脊髄症, 頚髄損傷などの頚髄病変, あるいは脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が疑われます.

Johann Hoffmann先生のポートレイト.

引用元:Nezhad GSM. Johann Hoffmann(1857–1919). J Neurol. 2014. 261.

この反射の名前の元になったのは, ドイツで最古の大学(1386年設立)として知られる名門Heidelberg(ハイデルベルク)医科大学の神経生理学教授であったJohann Hoffmann先生(1857-1919)です.
先述したPaul Hoffmann先生とは別人です.

Hoffmann先生は, 医学教育の中でこの反射について講義し, 実地臨床でも使用されましたが, 出版されることはありませんでした.
1911 年に彼の生徒であったドイツのRostock(ロストック)大学神経内科教授であったHans Curschmann先生(1875-1950)によって『J. Hoffmann schcs Phänomen(Fingerbeugereflex)(ホフマン現象(手指屈筋反射))』として記述された(Über die diagnostische Bedeutung des Babinskischen Phänomen im präurämischen Zustand. 1911. 58.)のが始まりです.

午後の病院での仕事

日本学術振興会のHPより『科学研究費助成事業(科研費)』について.

手術後, T大学の先生から, 新規の臨床研究で『科学研究費(科研費)』を申請するとのことで, 分担承認をいただきたいとの連絡があり, 10数年ぶりに『e-Rad』にアクセス.

『e-Rad』(府省共通研究開発システム)は, 文科省を始めとする各府省等が所管している公募型の研究資金制度に対して, 研究資金獲得のための応募の受付から実績の報告までの一連の業務をオンライン化することによって, ある研究者の研究開発経費の重複や過度の集中を避けるためのシステムです.

現在, 当院ではT大学と新しい医療器機を用いた臨床研究を共同で進めていましたが, さらに研究対象を拡げることになり, 新たに科研費を申請されるとのこと.

共同研究者として分担承認と研究インテグリティの入力が必要となりました.

研究者情報を確認したところ, 大学を辞めて以来, 科研費の申請から遠ざかっていたので, 所属が大学のままになっていました.
急いで, 今の病院の臨床研究管理担当者に連絡.
今日が締め切りとの連絡があったので焦りましたが, 何とか夕方には入力を完了できました.

16時から多職種での病棟回診.
入院患者さんは65人, 自分が主治医となっているのは35人でした.

17時半に病院を出ると, 久々の夕焼け.
週末, 天気が良ければ, 山に行こうと考えていたので, ちょっと期待しましたが, 天気予報を見ると, 明日も明後日も曇, 雨となっていました.

トレーニング

帰宅後, 妻とストレッチとトレーニング.

来るべきスキーシーズンに向けて, 四肢の筋力アップだけでなく, 体幹の筋力も鍛えるように, ちょっとずつメニューを増やしています.

入浴後, 久々のビールで一息.

明日は, 天気が悪いようなら, 買い物に行く予定です.

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