手術日+905日目 2026/8/20(木)(猫ひっかき病)

午前の病院での仕事

今朝は, 薄曇り.
午後は, 雷雨が降るかもとの天気予報だったので, 傘を持って出勤.

昨日まで通勤路は空いていましたが, 今日は明らかにクルマが増えていました.
13日から1週間, 昨日まで休みだった方が多かったのかと考察しました.

8時前に病棟に上がって, 昨日後輩医師の執刀で変形性膝関節症に対する脛骨近位骨切り術後の骨内異物除去術が行われた患者さんの経過を確認.
既にトイレに歩行されており, 痛みも軽く, 出血もなく経過していました.

8時から朝の病棟回診.

8時半に外来に降りて, 午前中は34人の患者さんを診療

巨大な脂肪腫の患者

大学病院整形外科から肩の大きな脂肪腫の中高年患者さんが紹介されて受診.
腫瘤は, 6-7年前からあったとのこと.

肩の脂肪腫の事例の普通写真.

引用元:Rahman GA. Lipomatous lesions around the shoulder: Recent experience in a Nigerian hospital. Int J Shoulder Surg. 2009. 3.

見ると鎖骨・肩鎖関節の上に乗っかるように10 cmを超える小さめのスイカサイズの腫瘤を形成.
皮膚が大分引き延ばされて, 薄くなっていました.
患者さんは, 免疫の異常から生じる皮膚科の病気のため, 長年, 免疫抑制目的で副腎皮質ホルモン薬プレドニゾロンを内服中.
長期間副腎皮質ホルモン薬を内服していると, ホルモンを分泌する副腎の働きが弱まっているため, 手術や大きな怪我などの強いストレスを受ける際には, 急性副腎不全(血圧低下やショック状態など)を防ぐために追加のステロイドを一時的に補う治療法(ステロイドカバー)が必要です.
また, 薬の副作用で, キズの治りが遅くなったり, 皮膚が壊疽したりするリスクがあります.

秋頃の手術を希望されたので, 手術枠を仮押さえしました.

肘の腫瘤の患者

大学病院整形外科からもうひとり患者さんが紹介されて受診.

肘前内側に腫瘤がある事例の普通写真.
同部のリンパ節炎を生じていました.

引用元:Sahu P. Isolated epitrochlear filarial lymphadenopathy: Cytomorphological diagnosis of an unusual presentation. Turk Patholoji Derg. 2020. 36.

6月から肘の前内側に腫瘤を生じた中高年の患者さんでした.
紹介状には, 腫瘤を圧すと痛みがあり, 叩くと腕の内側に響くような痛みもあり, MRI所見から神経性良性腫瘍である神経鞘腫が疑われるので手術をお願いしますと記載されていました.

診察すると, 肘の内側前寄りに3 cm大の腫瘤を触知.
しかし, 圧しても, 叩いても痛みはありませんでした.

猫ひっかき病による肘内側上顆リンパ節炎のMRI.
一見すると, 白く写る病変の上下に連続する線状構造があり, 神経性腫瘍と誤認することがあります.

引用元:Castro D. Cat-scratch disease mimicking soft tissue sarcoma in a pediatric patient. Radiol Case Rep. 2025. 20.

MRIを見ると, 一見, 腫瘤の上下に線状に写る構造があり, 神経の腫瘍のようにも見えました.
しかし, 腫瘤の深さが神経よりも浅いため, リンパ節炎と診断.

すかさず, 家でペットを飼っていないかと尋ねたところ,
「ネコを飼っています」
との返事.
ネコの飼育とリンパ節炎より, 『猫ひっかき病』を疑いました.

腕のリンパ組織の解剖イラスト.
肘の前内側には, 肘内側上顆リンパ節(Epitrochlear nodes)があります.

引用元:Scheltinga CEJT. In transit metastases in children, adolescents and young adults with localized rhabdomyosarcoma of the distal extremities: Analysis of the EpSSG RMS 2005 study. Europ J Surg Oncol. 2022. 48.

手や前腕のキズから入った細菌は, 肘の前内側にある肘内側上顆リンパ節に到達します.
このため, 手や腕をネコに噛まれたり, 引っかかれたりして, 細菌感染を生じると, このリンパ節が炎症を起こして, 腫れます.

正常な肘(A)と猫ひっかき病で肘内側上顆リンパ節炎を生じた肘の横断解剖模式図.
炎症を生じたリンパ節(薄緑)は, 正中神経(灰色矢印の先の黄色)や尺骨神経(曲がった黒い矢印の先の黄色)よりも浅い部位に存在しています.

引用元:Bernard SA. Epitrochlear cat scratch disease: unique imaging features allowing differentiation from other soft tissue masses of the medial arm. Skelt Radiol. 2016. 45.

神経性腫瘍とリンパ節炎を見分けるポイントは, 病変の深さです.
神経は, 筋肉を包む膜(筋膜)よりも深い部位に存在しています.
一方, リンパ節は, それよりも浅く, 皮下脂肪の中に存在しています.

猫ひっかき病による肘内側上顆リンパ節炎の単純CT(A), 造影CT(B), MRI(C, D).
病変の部位は, 腕の血管(上腕動静脈)と神経(正中神経)よりも浅い皮下脂肪内に存在してます.

引用元:Bernard SA. Epitrochlear cat scratch disease: unique imaging features allowing differentiation from other soft tissue masses of the medial arm. Skelt Radiol. 2016. 45.

従って, 神経性腫瘍とリンパ節炎では, 病変の深さが異なります.
CTやMRIで, 病変が神経や血管よりも浅い部位にある場合, 神経性腫瘍ではなく, リンパ節炎と診断できます.

猫ひっかき病

世界中のほとんどのネコは, バルトネラ属(Bartonella)の細菌バルトネラ ・ヘンセレ(Bartonella henselae)に感染しており, 体の中に細菌を持っています.
感染したネコ自体には, 症状はありません.

ネコへの感染は, ノミに由来します.
ノミは, あるネコから別のネコへと細菌を拡げます.
感染しているネコに咬まれたりひっかかれたりしてできた傷から人にも感染します.

ネコに咬まれたり, ひっかかれた部位には, 約3~10日以内に痛みのない赤い隆起が生じます.
この隆起には, その後かさぶたができて, 自然に治っていきます.
しかし, ときには膿が溜まることがあります.

2週間以内(ときに傷が治ってしまった後)に, 傷の近くのリンパ節が腫れることがあります.
発熱, 頭痛, 食欲不振などの全身症状が出ることもあります.

他の症状がでることはなく, ほとんどの場合, 自然に治ります.

『猫ひっかき病』の診断は, 上記の臨床経過とCT, MRIなどの画像検査によって行われます.
腫瘍と区別がつかない場合には, 針生検を行うこともあります.

細菌感染後に体内で作られるタンパク質を検出する『バルトネラ抗体検査』も診断の一助となりますが, 保険診療外のため, 全額自費負担となります.
また, 多くが海外への外注となり, 結果が判明するまで数週間かかります.

この患者さんに対しては, 自然によくなるかどうか, 外来で経過を観察することにしました.

13時過ぎに外来診療を終了.

午後の病院での仕事

急いで昼食を摂って, 13時半前に手術部に.

13時半から大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭挿入術を執刀しました.
患者さんは, 3週間以上前に入院された前期高齢者さん.

入院時, 急性胆嚢炎を発症したため, 飲食を止めて, 抗菌薬治療を行った後,食事を再開.
もともと2型糖尿病があり, 食事再開後に急激に血糖が上昇したため, 今度はインスリン注射で血糖をコントロールして, ようやく手術ができるところまできました.

時間が経っていたので, 骨折部周囲の癒着があり, 通常の手術よりも時間がかかりました.
1時間強で終了.

14時半過ぎに外来に.
午後に予約のあった患者さん4人を診療.

すぐに手術部に戻って, 今度は後輩医師の執刀で大腿骨転子部骨折に対する骨折観血的手術の助手を務めました.
40分ほどで予定通りに終了.

16時過ぎに病棟に上がって, 病棟の仕事.
16時半過ぎから夕方の病棟回診.
入院患者さんは64人, 自分が主治医となっているのは35人でした.

17時過ぎに病院を出ました.
幸い, 薄曇りのままで, 雷雨には当たりませんでした.

自転車トレーニング

帰宅後, 芝庭に水撒き.

その後, 自転車トレーニング.
エアロバイクを40分ほど, 気合いを入れて漕ぎました.

まだ, 風邪を引く前のコンディションまではほど遠い状況です.

入浴後, ノンアルコールビールで給水.

リモート会議

19時から消防救急業務連絡協議会という会議にリモートで参加.

1時間, 昨年度の救急搬送の実態について, 行政から報告があり, それに対して, 各医療機関が質問するという手順で進められました.
高齢者, 軽症の救急搬送事例が年々増加していることが問題として挙げられました.
今後, 2040年まで高齢化率がさらに増える見込みなので, この傾向はますます強まると予想されます.

一方, 搬送困難事例(救急隊から医療機関への問い合わせが4回以上でも搬送先が決まらず, 現場に30分以上滞在した状態)は徐々に減少しており, 各医療機関が救急隊に協力姿勢を示している表れと判断します.

なお, 搬送困難事例になるのは, 整形外科の患者さんが多く, 特に平日の午後はなかなか受け入れが決まらないとのことでした.
平日の午後は, 各病院で手術を実施しているため, 受け入れがなかなか決まらないのもやむを得ないと感じました.
救急隊が手術予定まで把握するのは困難でしょうし, 繰り返し照会をしていただくしかないと考えます.



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