手術日+631日目 2025/11/20(木)(Sleeve骨折)

初 氷

白く凍ったクルマ.

白く凍ったフロントガラス.
今朝は雲ひとつない快晴でしたが, 放射冷却で一気に冷え込み, ついにクルマの表面が凍りました. 外気温モニターは 1℃. いよいよ「冬の到来」を感じる朝でした.

午前の病院での仕事と膝蓋骨sleeve骨折の小学生

8時前に病棟へ. 後輩医師と朝の病棟回診を終え, 8時半から外来へ.
この日は30人の診療でした.

1カ月前から続く膝前方痛のため, 先輩医師のクリニックから紹介された小学生が来院.
持参されたX線では, 膝蓋骨下極がわずかに透けて見え, 骨腫瘍が疑われての紹介でした.
触診では膝蓋骨下端に圧痛があり, 精査のためCTを追加.

膝蓋骨下極のsleeve骨折のイラスト(A), X線写真(B), CT(C).
膝蓋骨下極が膝蓋腱に引っ張られることによって, 膝蓋骨本体から軟骨と骨膜が小さな骨片を伴って引き剥がされるように折れる骨折(剥離骨折)です.

引用元:Papotto G. Patellar sleeve fracture: An update of literature. Surgeries 2024. 5.

結果は, sleeve骨折でした.

幸い, 剥がれた骨が小さく, ズレもほとんどなかったので, 手術は行わないで, 運動休止で経過を観察していただくように返事を書きました.

Sleeve骨折についての誤認

Sleeve骨折は, 膝蓋骨に付着する腱に引っ張られて, 膝蓋骨の一部(骨・骨膜・軟骨)が剥がれるように生じる骨折です. 小児の膝蓋骨に見られる剥離骨折の一種です.

レコードとスリーブ(レコードジャケットカバー)の素材写真.

ちなみに“sleeve”とは衣服の袖ではなく, レコード盤を包むジャケットカバーのこと.
膝蓋骨がレコード本体, そこから剥離した骨・軟骨・骨膜がsleeveに相当します.

今回の事例に当たって, 『sleeve骨折』の論文を複数読みましたが, 日本語の論文では, 『sleeve骨折は, 1973年にHoughtonらが初めて報告したまれな骨折』という記述を複数見かけました. そこで本当にそうなのか, オリジナルの論文を読んでみました.

Houghtonによるオリジナルの論文.

Houghton GR. Sleeve fractures of the patella in children. J Bone Joint Surg. Br. 1979. 61.

Houghton先生は, イギリスのオックスフォード大学Nuffield整形外科センターの整形外科医で, 小児の膝蓋骨sleeve骨折の3例を報告した論文です.

論文冒頭には, 次のような記述があります.

『Although avulsion of the tibial tubercle has been reported (Holstein, Lewis and Schulze 1964), avulsion of the lower pole of the patella is more usual (Blount 1954; Rockwood and Green 1975) and rarely a fracture of the body of the patella may occur (Belman and Neviaser 1973). 』

訳すと, 『脛骨結節の剥離骨折は既に報告されており(Holstein ら, 1964), 膝蓋骨下極の剥離骨折のほうがより一般的である(Blount, 1954;Rockwood & Green, 1975). まれに膝蓋骨体部の骨折も起こり得る(Belman & Neviaser, 1973).」

この記述から分かるのは, 膝蓋骨下極の剥離骨折という“病態そのもの”は、すでに1954年の Blount先生のの論文(Fractures in Children, Baltimore: Williams and Wilkins Co.), そして1975年のRockwood & Greenの教科書(Fractures, Philadelphia and Toronto: J. B. Lippincott.:整形外科医なら誰でも知っている最も代表的な骨折の教科書)にも記載されていたということです.

つまり,
「1979年に膝蓋骨下極のまれな剥離骨折を最初に報告したのがHoughton先生」
なのではなく.

「1979年にまれならぬ膝蓋骨下極の剥離骨折を “sleeve fracture” と命名して, 3例報告したのがHoughton先生」

というのが正しい理解になります.

今回のように日本語文献の“定番フレーズ”がそのまま引用され続け, 原著の内容とズレた記述が広まっているケースは少なくありません.
特に, 「誰が最初に報告したのか」という歴史的背景は, 原著を確認すると印象が変わることがあります.

医学論文を書く際には,

  • 必ず原著にあたる
  • 二次文献の定型句をうのみにしない
  • “初めて報告” “rare” といった表現は慎重に使う
    ことの重要性を改めて感じました.

論文を書く際には, 必ず原著を取り寄せて, それを読んでから引用するようにと師匠の教授に繰り返し指導されたことを思い出しました.

大腿骨頚部骨折と腰痛の急患

11時過ぎ, 救急隊から転倒後に歩けなくなった後期高齢者の受け入れ依頼.
股関節伸展で強い痛み, 脚の見かけ上の短縮から非転位型 大腿骨頚部骨折を疑ってX線撮影.
結果は予想通り. 糖尿病の調整を行ってから手術予定としました.

続いてもう一件. 階段転落後腰痛を訴える別の高齢者の搬送依頼.
しかし診察すると, 痛みは軽度で歩行も可能. 同居の息子さんがインフルエンザ発症中とのことで, 本人も咳はあったものの骨折はないと判断し, 自宅療養していただくことにしました,

13時過ぎに午前の診療を終え, 遅めの昼食.

午後の病院での仕事と急性腰痛の急患

14時から外来を再開し2人を診療したところで, 大学病院の救急科医師から下り搬送の依頼.
起床時から急な腰痛を訴える患者さんで, CTでは第5腰椎の骨折が疑わしいとのこと. 受け入れることにしました.

転院患者の到着を待つ間に, 16時過ぎから早めの夕方回診.
入院患者は72人, うち35人が自分の担当です.

17時前, 救急車到着.
アルコール依存と認知症があり受傷機転は不明.
CTでは第5腰椎に陳旧性骨折の跡. 念のためMRIで確認しましたが, 新規骨折はなし.
診断は 急性腰痛(ぎっくり腰). 動けないため, 痛みが落ち着くまで入院として経過をみることにしました.

18時前に病院を退勤. 朝の厳しい冷え込みは和らいでいました.

講演会

18時半に講演会の会場へ移動し, 19時からの講演会で座長を務めました.
久々に会う先輩・同級生と挨拶を交わし, オンラインで幹事会も開催. 来年度の活動計画を議論しました.

特別講演は整形外科教授による骨軟部腫瘍の最新知見.
遺伝子異常や発症メカニズムに踏み込んだ内容で, 大変刺激的でした.

講演後は, 今年度末で大学病院を退職する後輩2人と歓談.
常日頃のリクルート活動の甲斐があって, 1名は来年度から当院関連病院へ, もう1名は週1で当院に来てくれる予定とのこと. 心強い仲間です.

トレーニング

帰宅後, 急いで夕食を済ませ, 21時前からトレーニング.
今日はVO2maxインターバル(3分 × 5本).
心拍150bpm超のハードセッションでしたが, 無事完遂.

ガーミンのスマートウォッチでは, VO2 Maxが53にアップ.

ガーミンのスマートウォッチを見ると, VO2 Maxは53に上昇.
トレーニングの効果を実感しています.

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