大腿骨頚部骨折の分類(ガイドラインより, 2021年)

大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021 改訂第3版』では, 『大腿骨頚部骨折の分類は, Garden stageを用いるのが一般的であった.』と過去形で記載されています.

ここでは, Garden分類を理解するために, 骨梁の説明をします.

骨の内部は, 網目構造からなるスポンジ様の骨(海綿骨)が存在しますが, その海綿骨は, 骨にかかる力を支えるために特定の配列をしており, これを骨梁(こつりょう)といいます.

大腿骨近位部の骨梁. CB: 皮質骨, PC: 主圧縮骨梁, PT: 主引張骨梁, GT: 大転子骨梁, SC: 二次圧縮骨梁, ST: 二次引張骨梁, W: ワード三角

引用元 森田. 海綿骨の機械的性質とその骨梁構造依存性について. 材料. 1983. 33.

primary compressive group(主圧縮骨梁),secondary compressive group(二次圧縮骨梁), primary tensile group(主伸張骨梁)は, 骨の内部では右上図のそれぞれ赤線, 黄線, 青線の方向に配列しています.
上左図のWは, Ward三角と呼ばれる骨梁が少なくなっている(右上図の黒く抜けている)部分です.

引用元 Wrong S. The impact of the parameters of the constitutive model on the distribution of strain in the femoral head. Biomech Model Mechanobiol. 2023. 22.

大腿骨近位部の骨梁は, 大腿骨頭にかかる垂直方向の力を支えるための主圧縮(圧迫)骨梁(上図のprimary compressive group)と, 二次(副)圧縮(圧迫)骨梁(上図のsecondary compressive group)と, 大腿骨頭にかかる回転方向の力を支えるための主引張骨梁(上図のprimary tensile group)などがあります.

ガイドラインでは, Garden分類の各stageについて, 主圧縮骨梁の方向に基づいて, 以下の通りに解説しています.

引用元 Fischer H. Management of proximal femur fractures in the elderly: current concepts and treatment options. Eur J Med Res. 2021. 26.

Stage I(上図Garden I)は, 『不完全骨折であり, 骨頭は外反位をとり骨折線の上部では陥入し, 内側頚部骨皮質には骨折線はみられず若木骨折型を呈する.』.

Stage II(上図Garden II)は, 『完全骨折であるが転位はなく, 遠位骨片と近位骨片の主圧縮骨梁の方向性に乱れがない.』.

Stage III(上図Garden III)は, 『転位のある完全骨折であり, 単純X線正面像では,近位骨片は内反して主圧縮骨梁は水平化し, 臼蓋, 骨頭, および遠位骨片内側の主圧縮骨梁の方向が一致していない. 』.

Stage IV(上図Garden IV)は, 『転位高度の完全骨折であり, 単純X線写真正面像でstage IIIとの違いは臼蓋, 骨頭, 遠位骨片内側の主圧縮骨梁の方向が一致して, 正常の方向を向いている点である. 』

実際に大腿骨頚部骨折のX線写真を見て, それがGarden分類のStage IからIVのどれに分類したらよいかをX線写真を読み取る人(『検者』といいます)によってどれくらい一致したのか(『検者間一致率』といいます)を検討した複数の研究において, 検者間一致率が低いことから, ガイドラインには, 『stage I・IIを転位型(上図Nondisplaced), stage III・IVを転位型(上図Displaced))として分類すると診断一致率が改善し, 治療法の選択と予後予測に有用である.』と記載されています.

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