大腿骨頚部骨折を固定する手術では, どの器械を使うのがよいでしょうか?

大腿骨頚部骨折を固定する器械

現在, 大腿骨頚部骨折を固定するための手術に使われている器械には,

1. 海綿骨用の中空ネジ(キャニュレイテッドキャンセラススクリュー cannulated cancellous screw: 略してCCS, または, キャニュレイテッドヒップスクリュー cannulated hip screw: 略してCHS)

CCSによる大腿骨頚部骨折の固定

引用元 Taljanovic MS. Fracture fixation. Radiographics. 2003. 23.

2. 先端に脱落防止のための鈎が付いた表面が平滑な(ネジ山がない)棒(フックピン)

Hansson pinによる大腿骨頚部骨折の固定.

引用元 木寺. 陥入型を考慮したGarden分類を用いた大腿骨頚部骨折の手術成績不良症例の検討. 骨折 2023. 45.

2-1. フックピンの回旋安定性を目的として, フックピンとプレートを組み合わせたもの

Hansson Pinlocによる大腿骨頚部骨折の固定

引用元 Åberg H. Pinloc or Hansson pins: a multicenter, randomized controlled study of 439 patients treated for femoral neck fractures. OTA INt. 2023. 22.

3. 伸縮機能付きのネジ(sliding hip screw: 略してSHS)

3-1. 両端にネジ山が切ってある伸縮機能付きの中空ネジ(バレルタイプスクリュー)

DSCIIによる大腿骨頚部骨折の固定

引用元 伊藤田. Dual SC Screw Systemによる大腿骨頚部骨折の治療成績. 整形外科と災害外科. 2014. 63.

3-2. 伸縮機能付きのネジに角度安定性をもたらすためにプレートを組み合わせたもの

Targon FNによる大腿骨頚部骨折の固定.

引用元 安楽. Targon Femoral Neck(FN)を用いた大腿骨頚部骨折の骨接合術の治療経験. 整形外科と災害外科. 2012. 61.

の3種類があります.

なお, 私が医師になった今から35年くらい前の1990年頃には, 大腿骨近位部骨折の手術ではスライディングヒップスクリュー(sliding hip screw; 略してSHS)またはコンプレッションヒップスクリュー(compression hip screw; 略してCHS), あるいはダイナミックヒップスクリュー(dynamic hip screw; 略してDHS)という器械が使われていました. 現在は, 回旋安定性が少ないために, 大腿骨転子部骨折に使われることはありますが, 大腿骨頚部骨折に使われることはほぼなくなりました(下図参照)。

CHSによる大腿骨頚部骨折の固定と, 大腿骨頭回旋転位の合併.

引用元 越智. 大腿骨頚部内側骨折に対するCHS固定法の治療成績. 整形外科と災害外科. 2000. 49.

ガイドラインでの器械の選択

大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)』には, 『非転位型骨折に対する骨接合術の術式選択と後療法』の, 『大腿骨頚部骨折の内固定材料としてスクリューとSHS(sliding hip screw)のどちらを選択するか』というClinical Question(臨床的疑問)に対して, 『スクリューあるいはSHSのいずれを選択してもよい』と記載されています.

その根拠としては, 1編のシステマテックレビュー(ある課題に関して行われた過去の研究論文を網羅的に検索して, そのバイアス(偏り)を系統的に吟味し, その結果に応じて統計的に統合する研究手法)(Parker MJ. Cochrane Database Syst Rev 2001. CD001467)と2013年と2014年に出版された2編のRCT(無作為化比較試験)の研究論文(Watson A. Prospective randomized controlled trial comparing dynamic hip screw and screw fixation for undisplaced subcapital hip fractures. ANZ J Surg 2013. 83., Griffin XL. The Targon femoral neck hip screw versus cannulated screws for internal fixation of intracapsular fractures of the hip: a randomised controlled trial. Bone Joint J. 2014. 83-B. )をメタ解析(ある程度似ている研究の複数の結果を統合して, 解析する統計手法)した結果, スクリューとSHSを使った場合を比べると, 偽関節(骨折した骨がつながらない)発生率, 骨頭壊死発生率, 骨癒合(骨がつながって治る)率には差がないことを挙げています.

では, 最新の研究結果ではどうなっているのでしょうか. ここでは, ガイドラインで採用された2017年までの研究論文以降に発表された研究論文を紹介します.

キャセラススクリューとスライディングヒップスクリューの比較

まずは, カナダのマックマスター大学整形外科Bhandari先生らによる大腿骨頚部骨折に対するキャンセラススクリューとスライディングヒップスクリューの手術後の再手術率を比較する国際的な多施設共同無作為化比較試験(FAITH試験)(Fixation using Alternative Implants for the Treatment of Hip fractures (FAITH) Investigators. Fracture fixation in the operative management of hip fractures (FAITH): an international, multicentre, randomised controlled trial. Lancet 2017. 389.)の結果を公表した研究論文です.

2008年3月から2014年3月までの間に, 50歳以上の低エネルギー外傷で生じた1,108人の大腿骨頚部骨折に対して, 81の施設でキャンセラススクリュー(557人)かスライディングヒップスクリュー(551人)を使った手術を無作為に実施した後の再手術を調査しました.

再手術するまでに要した時間を横軸に, 手術器械が体内で保っていた割合を縦軸にとった生存分析では, スライディングヒップスクリュー(赤線)の方が, キャンセラススクリュー(青線)よりも長く保って(再手術までの時間が長く, 再手術も少なくなって)はいましたが, 統計学的な差はありませんでした。

評価が可能であった患者さんを対象としたところ, キャンセラススクリューでは, 537人中117人(22 %), スライディングヒップスクリューでは, 542人中107人(20 %)で再手術が行われました. 両者の間で再手術率には, 統計学的な差はありませんでした(上図 Figure 2).

大腿骨頭壊死は, スライディングヒップスクリューの方(50人(9 %))が, キャンセラススクリュー(28人(5 %))よりも多くなりました(HR 1·91, 1.06–3.44; p=0.0319)が, その他には両者には差がないことが判りました.

つぎに, 中国の大連医科大学のXia先生が発表された大腿骨頚部骨折に対するスライディングヒップスクリュー(SHS)とキャニュレイテッドキャンセラススクリュー(CCS)を使った手術後の治療成績を比較研究したメタ解析の研究論文(Xia Y. Treatment of femoral neck fractures: sliding hip screw or cannulated screws? A meta- analysis. J Orthop Surg Res. 2021. 16. )です.

2020年8月までに発表された研究論文を検索された結果, 9編の研究論文を採用されました.

偽関節の発生率(上図Fig. 5)は, SHSとCCSの間に差はありませんでした.

手術の失敗率(上図Fig. 6)も, SHSとCCSの間に差はありませんでした.

再置換の割合(上図Fig. 9)も, SHSとCCSの間に差はありませんでした.

以上, ガイドライン出版後の研究論文でも, 大腿骨頚部骨折にスクリューまたはSHSを使って手術した場合, 大腿骨頭壊死の発生は, SHSの方が多くなる可能性はありますが, 偽関節発生率, 失敗率, および再手術率には差がないので, ガイドライン通り, スクリューSHSどちらを選択してもよいと言えます.

ハンソンピンとFemoral Neck Systemの比較

ハンソンピンとFemoral Neck Systemの治療成績を比較した研究論文は見つからなかったので, ここでは, 両者の力学的強度を比較して調べたスイスのAO財団(Femoral Neck Systwmの開発元)のSchopper先生の研究論文(Schopper C. Higher stability and more predictive fixation with the Femoral Neck System versus Hansson Pins in femoral neck fractures Pauwels II. J Orthop Translation 2020.24.)を紹介します.

Femoral Neck Systemで固定したモデル(X線写真2A, 外観2C)とハンソンピンで固定したモデル(X線写真2B, 外観3D)

死体骨の大腿骨頚部を切って, 大腿骨頚部骨折を人工的に作った後, Femoral Neck Systemとハンソンピンで固定した実体モデルに対して, 器械による外力を加えて, それぞれの器械が破断するまで何回かかるかという強度試験を行いました.

その結果, 大腿骨頭を内反する(大腿骨頭がお辞儀するように内側に曲げる)外力(上図Figure 5.の真ん中のVarus deformation)では, Femoral Neck System(平均23,007±標準偏差5,496回)の方が, ハンソンピン(17,289±4,686回)より多くの回数を要したことから, Femoral Neck Systemの方がハンソンピンよりも内反する外力に対する抵抗性が高いことが示されました(p=0.027).

Femoral Neck Systemとキャニュレイテッドスクリューの比較

まず, 中国の西安交通大学整形外科学講座のLu先生が発表されたシステマティックレビューの研究論文(Lu Y. Femoral neck system versus cannulated screws for fixation of femoral neck fracture in young adults: a systematic review and meta-analysis. 2022. Am J Transl Res. 2022. 14.)です. 18歳以上65歳未満の若年成人に生じた大腿骨頚部骨折に対するFemoral Neck System(FNS)とキャニュレイテッドスクリューcannulated screw(CS)を使った手術の治療成績の差を調査しました.

2022年3月までに発表された研究論文を検索された結果, 8編の研究論文を採用されました.

明らかな差があったのは, 手術中のX線透視時間(上図Figure 2. のC)で, FNSの方がCSよりも短くて済みました. 手術中の出血量(上図Figure 2. のB)は, CSの方がFNSよりも少なくなりました. 手術の所要時間(上図Figure 2. のA)は, FNSの方がCSよりも短めでしたが, 統計学的な差はありませんでした.

体重をかけられるようになるまでの期間(上図Figure 3. のB)は, FNSの方がCSよりも明らかに短かくて済みました. 一方, 股関節の機能評価(上図Figure 3. のD)は, CSの方がFNSよりも良いという結果でした. 入院期間(上図FIgure 3. のA)と治癒までの期間(上図Figure 3. のC)は, 差がありませんでした.

全ての合併症(上図Figure 4. のA)と大腿骨頚部の短縮(上図Figure 4. のB)は, FNSの方がCSよりも明らかに少ないという結果でした.

次に, 中国の四川大学華西病院, 整形外科研究所整形外科学講座のJian先生が発表されたシステマティックレビューの研究論文(Jiang J. Comparison of femoral neck system versus cannulated screws for treatment of femoral neck fractures: a systematic review and meta-analysis. BMC Musculoskeletal Disorder. 2023.24.)です.

2018年から2022年2月までに発表された研究論文を検索された結果, 8編の研究論文を採用されました.

手術のキズの長さ(上図Fig. 2のA)と出血量(上図Fig. 2のB)は, CSの方がFNSよりも明らかに少なくなりました. 一方, X線の被ばくは, FNSの方がCSよりも明らかに少なくなりました. 手術時間(上図Fig. 2のD)は両者で差はありませんでした.

骨折が治るまでの期間(上図Fig. 3のA)はFNSの方がCSよりも明らかに短く, 大腿骨頚部の短縮(上図Fig. 3のC)はFNSの方がCSよりも明らかに少なくなりました. 入院期間(上図Fig. 3のB)はCSとFNSとの間で差はありませんでした.

大腿骨頭壊死(上図Fig. 4のB)と器械に由来する失敗またはカットアウト(器械の先端が大腿骨頭を突き破って骨の外に出てしまう合併症)(上図Fig. 4のC)は, FNSの方がCSよりも明らかに少なくなりました. 偽関節(骨折部の骨がつながらないこと)と癒合遅延(骨折が治るまで通常よりも長時間かかること)(上図Fig. 4のA)は, FNSとCSとの間に差はありませんでした.

Jiang J. BMC Musculoskeletal Disorder. 2023.24. Fig. 5.

痛み(上図FIg. 5のA)は, FNSの方がCSよりも明らかに少ないという結果でした. 機能的成績(上図Fig. 5のB)は, CSの方がFNSよりも良いという結果でした.

以上より, Femoral Neck Systemとキャニュレイテッドスクリューとを比較すると, Femoral Neck Systemの方が, キャニュレイテッドスクリューよりも早く骨がつながり, 痛みも少なくて, 早く体重を掛けられるようになり, 大腿骨頚部の短縮, 器械による問題, 大腿骨頭壊死, あるいは全ての合併症が少ないという利点があることが判りました. 一方, 股関節の機能評価は, キャニュレイテッドスクリューの方が良いということが判りました.

大腿骨頚部骨折で手術を受けられる方は, 以上の点を理解して, 手術の時に使われる器械を選ばれるのがよいと考えます. 私は, Femoral Neck Systemの方がキャニュレイテッドスクリューよりも有利な点が多いことからFemoral Neck Systemを使って手術してもらいました.

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