午前の病院での仕事とがんによる高カルシウム血症の患者
今朝もやや涼しい朝でした. 薄曇りで, クルマの外気温モニターでは16 ℃でした.
8時前に病棟に上がって, 昨日, 後輩医師の執刀で手術が行われた中高年の患者さんの経過を確認しました. 1年前にすねの骨(下腿骨)を骨折して, 手術が行われた後, 骨がつながって治ったので, 骨に入れた金属製の棒(髄内釘)や板(プレート)やネジを取り除く手術でした. 外国の方なので, 非常に痛がっていましたが, 問題なく経過されていました.
8時から後輩医師と一緒に朝の病棟回診を行いました.
8時半から病院内のカンファランスがあるので, 講堂に移動しました. 今日は, 病診連携室からの発表で, 昨年度の紹介数についてでした. 院内で他院からの紹介数が一番多かったのは, 整形外科でした. さらに年々10 %以上のペースで紹介患者さんが増えつつあることが判りました. 忙しいはずです.
9時前に外来に降りて, 先輩医師の整形外科クリニックから紹介されてこられた患者さんを診療しました. 1ヶ月半前から腰痛があり, 3週間前から胸の前方が腫れてきたという高齢の患者さんでした. 車イスに乗っていて, 家の方に押されて診察室に入ってこられました.

胸の中央にある平べったい縦長の骨が胸骨です.
鎖骨と肋骨が接続します.

頭側の柄部(mandibrium sterni), 中央の体部(corpus sterni), 下端の劔状突起(processus xiploideus)の3つの部分から成ります.
引用元:Anatomy Standard
首のすぐ下の胸の真ん中にある胸骨の柄部に8 cmくらいのしこりがありました. 腰の痛みは軽いようで, 立ち上がって, お辞儀をすることが可能でした. なぜ, 立って歩いてこなかったのかを聞くと, だるくてとのことでした. しこりは, 悪性の腫瘍が強く疑われたので, 血液検査とCT, MRIを今日中に撮像して診断することにしました.
9時に大学医学部の学生さんが来られたとの電話が来たので, 会議室に移動して, 当院での実習について, 20分ほどのミニ講義を行いました.
9時半前に外来に戻って, 30人の患者さんの診療を行いました. 診療中に, 胸骨にしこりがある患者さんの血液検査結果にパニック値がありますと検査室から電話が来ました. 血液中のカルシウムの濃度(血清カルシウム値)が15.2 mg/dL(基準値8.8〜10.4 mg/dL)と異常に高くなっていました.
悪性の腫瘍では, しばしば血清カルシウム値が増加する異常(高カルシウム血症)を生じます. その原因としては, 悪性体液性高カルシウム血症(humoral hypercalcemia of malignancy:HHM)と骨転移に伴う広範な骨破壊による高カルシウム血症(local osteolytic hypercalcemia:LOH)があります.
高カルシウム血症では, 最初に倦怠感, 疲労感, 食欲不振などを生じ さらに高度になると筋力低下, 口渇, 多飲, 多尿, 悪心, 嘔吐などが出現します. さらに重症化すると錯乱, 昏睡に至り, 死亡することもあります. 患者さんには倦怠感の他に目立った症状はありませんでしたが, 直ちに高カルシウム血症の治療を開始する必要がありました. まだ原因は不明であるが, 血液中のカルシウムが異常に増えていることを患者さんに説明して, すぐに生理食塩水の急速点滴を始めました. また, 薬剤科に電話して, カルシウムを減らすためにエルシトニンという薬を手配するように指示しました. 病院内に在庫がなかったので, 卸に連絡して, 届けてもらうことになりました.

胸の前方の中央にある胸骨に灰色の塊があって, 骨が溶けて壊れています.
昼過ぎにオーダーしていたCTとMRIが撮れたので, 確認しました. 予想通り, 胸骨に骨を破壊するような病変があり, 悪性の骨腫瘍が疑われました. その他に, 肋骨, 腰椎, 骨盤の骨も同様に溶ける様に壊れていたので, がんの多発骨転移と判断しました.

肺の中に白い丸い病変(結節性病変)が複数認められます.
引用元:Griffin N. Imaging in metastatic renal cell carcinoma. AJR AM J Roentogenol. 2007. 189.
肺の中にも小さな丸い影が複数認められ, 多発肺転移と診断しました. 体内にあるがんが血液に入って, 全身に拡がった状態(血行性転移)が強く疑われました.

左の腎臓の中にまだらに白色を混じる灰色の癌が認められます.
転移の元になった原発がんは, 腎臓に12 cm大の腫瘤があったので, 腎癌(あるいは, 後腹膜という腎臓のあるスペースにできた他のがん)と判断しました. 造影CTを撮像すれば, 腎癌かどうかは判別が可能ですが(上図参照), 今日の血液検査の結果, おそらく脱水による腎臓の機能低下があったために, 造影剤が使えなかったので, 画像所見では腎癌かどうかは判別困難でした.
高カルシウム血症の原因は, 多数の骨が破壊されたことによるLOHか, がん細胞が産生する副甲状腺ホルモン関連タンパクPTH-related protein(PTHrP)によるHHMなのかは, 今日の段階では検査結果がすぐに出ないため, 判りませんでした. ただし, 腎癌はHHMを生じうるがんのひとつです. その他には, 肺癌, 乳癌, 頭頚部癌, リンパ性白血病などがHHMを生じます.
患者さんと付き添いのご家族に, 胸のしこりは胸骨へのがんの骨転移が疑われること, これまでの腰痛も腰椎に転移したがんによる痛みであり, さらに他の骨や肺にも転移があること, それらの元になったのは腎癌(または後腹膜のがん)が強く疑われること, 高カルシウム血症の治療が引き続き必要で, 今日投与したエルシトニンに反応しない場合には, 他のカルシウムを減らす薬(ランマーク(腎機能が改善すれば, ゾレドロン酸))での治療や, さらに悪化する場合には透析が必要となることもあると病状を説明しました. 当院には透析の器械がないことと, 泌尿器科の他に整形外科, 内分泌内科, 放射線科, 腫瘍内科などの複数の診療科による集学的な治療が必要であるため, 大学病院に連絡して, これから受診, 入院できるか問い合わせるという方針を告げました.
急いで, 紹介状を作成して, 病診連携室の担当職員に大学病院の泌尿器科と交渉してもらうことにしました.
以上のやりとりで, 大分時間がかかってしまいました. というわけで, 午後の外来の開始時間である14時になったので, 引き続き予約のあった4人の患者さんの診療を行いました.
14時半過ぎに大学病院から入院の受け入れ可能との連絡が入ったので, 救急車で患者さんを送ることになりました.
15時過ぎに外来診療を終えました. 自分の部屋に戻って遅いランチを摂りました.
運営会議
病棟で貯まっていた仕事を片付けて, 16痔半から病院の運営会議に参加しました.
病院内の各種委員会からの報告を受けた後, 経営責任者として, 現状分析と経営方針について示達しました.
17時前から後輩医師と一緒に夕方の病棟回診を行いました. 入院患者さんは77人, 自分が主治医となっているのは34人でした.
18時半前に病院を出ました. 空は晴れていましたが, はやり涼しく感じました.
医師会定例理事会
19時から地元の医師会の定例理事会があるので, 医師会事務局にあるビルに移動しました.
19時から予定通りに理事会が開催されました. 来月は, 医師会の年次総会が開催されるので, その対応が主な議題でした.
21時前に帰宅しました.
夕食後, ブログ記事を書きながら, 改めて悪性骨腫瘍に合併する高カルシウム血症の診断と治療について, 勉強しました.
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