手術後に体重をかけ始める時期の基準が定まっていない
大腿骨頚部骨折に対して, Femoral Neck Systemを使って骨をつなげる手術を行った後, どれくらい経ってから体重をかけていいのかを調べましたが, 明確な基準は見つけられていません.
Femoral Neck Systemについては, 以下の記事を参照下さい.
Femoral Neck Systemの開発元は「6週間以後」
Femoral Neck Systemを開発した, AO Traumaのホームページには, Aftercareとして, 以下のように記載されています.
『The elderly patient may start with weight bearing as tolerated with walking aids the day after surgery. Initial restricted weight bearing is required for the young patient. This can be reassessed at 6 weeks. Unrestricted range-of-motion exercises of the hip joint are allowed. 』(高齢の患者では, 手術の翌日から歩行補助具(歩行器や杖など)で耐えられる荷重から開始することが許容されます. 若い患者は, 初期には荷重制限が必要です. 荷重制限は, 6週間経過後に再評価できます. 股関節の可動域訓練は, 無制限に行うことができます.)
上記の記述からは, 自分も含めて, 若い患者さんでは, Femoral Neck Systemを使った手術後すぐには体重をかけないようにする必要があるようです. そのため, 手術後, 今日(2024/3/14)までの2週間はつま先を軽くつく程度で, 足裏には体重をかけないように過ごしました.
では, 骨折した方の脚に, いつから体重をかけ始めていいのか, いろいろと調べましたが, それについて研究した論文を見つけることができずにいます.
日本のガイドラインでは「すぐに」
日本整形外科学会, 日本骨折治療学会が監修した『大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版). 2021. 東京. 南江堂』では, 『荷重制限の必要性』として, 『非転位型骨折では, 早期荷重による合併症は少ない. 転位型骨折でも, 固定性が良好であれば, 早期荷重を行ってよい.』と記載されています.
海外のレビュー論文では「12週間後」
これまでに発表された若年者の大腿骨頚部骨折についての研究論文をまとめた2014年のレビュー(総説)論文(Pauyo T. Management of femoral neck fractures in the young patient: A critical analysis review. World J Orthop. 2014. 5.)には,
The patients are usually subject to toe-touch weight bearing with a walker or crutches for 12 wk until the fracture is healed. They are then progressed to full weight bearing as tolerated. (患者は, 通常, 歩行器か杖を使って, つま先をつく程度の荷重を骨がつながって治るまでの12週間続ける必要がある. その後, 許容範囲内で全荷重に移行する.)と記述されています.
この論文によれば, 大腿骨頚部骨折の手術後3カ月間は松葉杖を使って, 体重をかけるのを控える必要があることになります.
名古屋大の研究論文では「4週間後」
一方, 若年成人の大腿骨頚部骨折を手術治療した患者さんにおいて, 早期に荷重をかけた患者さんと荷重を遅らせた患者さんを後方視的に比較した名古屋大学整形外科学教室の長谷川寛太先生が発表された研究論文(Hasegawa K. Early versus delayed weight bearing after internal fixation for femoral neck fracture in younger adults: A multicenter retrospective study. Injury 2024, 55.)によると,
2016年から2020年までの間に, 名古屋大学附属病院とその関連病院の11病院で大腿骨頚部骨折の治療が行われた65歳以下の患者さん946人のうち, 条件に合致した151人を対象に, キャニュレイテッドスクリュー(中空ネジ)3本で骨折部を留める手術を行った後, 早期(手術後1日目)から全荷重を開始した群(EWD)と荷重を遅らせた(最初はつま先をつく程度の荷重を許可して, 手術後4週間経過してから荷重を開始した)群(DWB)とに分けて, 後ろ向きに比較した研究になります.
キャニュレイテッドスクリューについては, 以下の記事を参照下さい.
転位がない骨折(Garden stage IまたはIIに該当)では, 荷重を送らせた群の方が, 早期から荷重を介した群よりもPMS(Parker mobility score(歩行能力を点数化したスコア))が高く, NRS(0が痛みなし, 10が想像できる最大の痛みとして, 0~10までの11段階に分けて, 現在の痛みがどの程度かを指し示す段階的スケール)が低く, Femoral neck shortening(大腿骨頚部の短縮)が少なくなりました. ただし, CCS back out(キャニュレイテッドスクリューの外側への抜け)は 荷重を遅らせた群と早期から荷重を開始した群との間で差はありませんでした(上記Table 2).
転位がある骨折(Garden stage IIIまたはIVに該当)でも, 荷重を送らせた群(DWB)の方が, 早期から荷重を開始した群(EWB)よりもPMSが高く, NRSが低く, Femoral neck shorteningが少なくなりました. また, CCS back outも, 荷重を遅らせた群の方が, 早期から荷重を開始した群よりも少なくなりました(上記Table 4).
以上の結果から, 大腿骨頚部骨折をキャニュレイテッドスクリューで留める手術をした後には, 早期に荷重をかけるよりも, 手術から4週間経過してから荷重を開始した方が, 歩行能力が高く, 痛みが少なく, 大腿骨頚部骨折の短縮が少なく, 特に転位がある場合は, キャニュレイテッドスクリューの移動も少ないことが分かります.
鳥取市立病院の研究論文では「12週間後」
また, 鳥取市立病院整形外科の岡田幸正先生は, 転位のない大腿骨頚部骨折の治療成績を研究された論文(岡田. 非転位型大腿骨頚部骨折に対する骨接合術-当院での治療方針と良好な治療成績-. 中四整会誌. 2018. 30.)において, 2014年から2016年までの間に手術を行った転位のない大腿骨頚部骨折(下図1)に対して骨接合術を行った49例(Garden I 29例, Garden II 2例, 外反完全骨折18例)の良好な治療成績を発表されています. 固定に使った器械は, Dynamic Hip Screw(伸縮機能があるネジ) が25例, Cannulated Cancellous Hip Screw が48例, Hansson Pinloc®(抜け防止の鈎がついたネジ山のないスムースな棒とそれを固定するプレートを組み合わせた器械)が6例でした.
固定のための器械の詳細については, 以下の記事を参照下さい.
大腿骨頚部骨折の分類については, 以下の記事をご覧下さい.
それによると, 全例で骨がつながって治っていて(骨癒合率 100%), MRIで評価した骨頭壊死の発生は1例だけ(1/24=4.2 %), LSC(late segmental collapse=遅発性骨頭陥没)はゼロという非常に良好な治療成績でした. 経過観察期間が短いですが, これまでの報告に比べると, 骨頭壊死とLSCの発生はかなり少なくなっています.
岡田先生は, 治療成績が良好であった理由として, 『そのひとつは, 術後に12週免荷による後療法を行っていることである. 他の報告では明確な免荷期間は設けておらず, ガイドラインでも早期荷重が推奨されている. しかし, 大腿骨頚部骨折の骨接合術では術後免荷によって骨癒合率と LSC の発生を予防できるという報告もあり, これにより少なからず存在する成績不良例をさらに減らすことができると考えられる. もうひとつは, 術後免荷が困難な高齢者に対して骨接合術の適応を Garden I型(原文ママ)のみに制限していることが挙げられる. Garden I型(原文ママ)であれば骨質の悪い高齢者でも術後全荷重で問題がない結果が得られてお り, この度の研究では免荷が可能な症例では12 週免荷を行っていたが, 今後はGarden I型(原文ママ)については免荷期間は必要ないかもしれない. しかし, 外反完全骨折の骨接合術では成績不良例の発生率が高いことが報告されている. 高齢者の同骨折型に対して骨接合術を行うと, その移動能力から術後は早期から全荷重歩行を行うことを余儀なくされ, 成績不良となるリスクが高いのではないかと考えられる. 外反完全骨折の治療方針については, ガイドラインには明確な記述がない. 当院では術後免荷が可能であるならば骨接合術を適応する方針としているが, 他の報告では軸位の後屈転位の状況に応じて骨接合術の適応を検討したり, 最初から人工骨頭挿入術の適応を検討したりと, さまざまな考察がなされている. しかし, いまのところ決定的な治療方針はないのが現状と考えられ, 同骨折型に対する明確な治療方針の確立が求められる.』と述べられています.
以上の論文を読んでから, 今後, 免荷を手術後12週までを続けるかどうか, 迷っています. 同業者の方で, 免荷期間についてのアドバイスがあれば, コメントをお願い申し上げます.
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