東北大学医学部整形外科学教室(論文発表時)の橋本昌美先生は, 大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭挿入手術の際に摘出した大腿骨頭の組織学的な検討を基本に, Garden分類と摘出骨頭の軟X線像を参照して, 大腿骨頚部骨折をtype IからIVまでの4型に分類されました(下記Fig. 11)(橋本. 大腿骨頚部内側骨折における骨頭のX線学的 ならびに組織学的研究. 日整会誌. 1982. 56. ).
大腿骨頚部骨折後, 大腿骨人工骨頭挿入術のために大腿骨頭を摘出した112人の患者さんの大腿骨頭のスライス(切片)を顕微鏡を使って組織学的に観察して, 生きている骨か死んでしまった骨(壊死えし)かを切片上に地図状に描くことによって, 生きている骨が占める面積の割合(下記Fig. 8のLiving area(%))を求めました.
大腿骨頚部骨折後, 大腿骨頭を摘出するまでの期間は, 最短1日, 最長2年以上と広範囲でした(上記 Fig. 8のグラフの横軸で, 最短が1〜7 days(1〜7日目), 最長が24 months over(24カ月以上)まで). また, 大腿骨頭の内部で生きている骨の範囲が占める割合も様々でした(上記 Fig. 8のグラフの縦軸にあるLiving area (%)で, 0 %(大腿骨頭の内部に生きている骨がない)から100 %(大腿骨頭の内部全体が生きている骨で占められている)まで). 言い換えると, 大腿骨頚部骨折を生じても, 必ずしも大腿骨頭が全て壊死するわけではないことが分かりました.
また, 橋本先生は, 論文中で「摘出骨頭の組織学的所見と摘出骨頭の軟X線像や単純X線像とを対比した結果, Gardenの単純X線像の分類は,単に転位の有無を表すに過ぎず, 骨頭の生死状態を表現するものではないことがわかった.」と述べられています.
そして, 「組織像を基本とし, Gardenの分類と摘出骨頭の軟X線像を参照して」大腿骨頚部骨折を4型に分類されました(下記Fig. 11).
- Type Iは, 「転位のない骨折(undisplaced fracture)(上図Fig. 11では, undisplaced subcapital fracture)で, 外転陥入骨折(上図Fig. 11では, undisplaced abduction fracture), 陥入骨折(上図Fig. 11では, impacted fracture), Garden stage I, IIなどが含まれる. 」
- Type IIは, 「骨欠損が多く, 三日月状を呈する骨折(crescent fracture)」
- Type IIIは, 「転位のある骨折(displaced fracture)」で, そのうち, 「骨欠損が高度なもの(上図Fig. 11では, large bone defect)をtype IIIa, 骨欠損の軽度なもの(上図Fig. 11では, small bone defect)をtype IIIbとした. 」この型には, 「Garden stage III, IVが含まれる」
- Type IVは, 「中間部骨折(transcervical fracture)」(現在は, 頚基部骨折と呼ばれます)
大腿骨頚部骨折の4つのtypeと大腿骨頭の内部で組織学的な生きている骨の範囲の割合との関係をみたところ, type Iでは9例中7例で生存範囲の割合が80 %以上であったのに対して, type IIでは, 11例中7例が完全壊死, type IIIでは, 89例中16例が, 完全修復または生き残り, 13例が完全壊死, type IVでは, 完全修復, 一部修復, 完全壊死が各1例ずつでした(上記Fig. 16)
以上の結果から, 大腿骨頚部骨折の各typeに対する治療方針としては,
- type Iは, 骨頭が50 %以上生存しているので, 保存療法(安静を保って骨がつながるのを待つ)あるいは骨接合術(骨をつなぎ合わせる手術)
- type IIは, 骨頭が全体に壊死してしまい, 骨片も小さく骨接合も困難であるので, 人工骨頭挿入術
- type IIIaは, 人工骨頭挿入術
- type IIIbは, 骨接合術
- type IVは, 骨頭の栄養血管が保たれ, 骨頭の萎縮も少ないので, 骨接合術
を選択することを勧めました.
さて, 私が負った大腿骨頚部骨折は, 橋本先生の分類では, type Iの外転陥入骨折に該当しますので, 治療方針としては, 保存療法か骨接合術になります.
別の記事でも述べたように, 保存療法を行った場合, 骨折部がズレる(転位する)危険性が低くないため, 自分は骨接合術を選択しました.
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