手術日+541日目 2025/8/22(金)(Pauwels分類の混乱)

午前の病院での仕事と大腿骨頚部骨折の患者

朝から晴れ渡っていて, 暑くなりそうな天気でした. 最高気温は, 35 ℃が予想されており, 残暑が続くようです.

8時前に病棟に上がって, 昨日後輩医師の執刀で手術が行われた患者さん(変形性膝関節症に対する脛骨近位骨切り術の中高年)の経過を確認しました. 痛みが少しあるとのことでしたが, 問題なく経過されていました.

8時から後輩医師と一緒に朝の病棟回診を行いました. 昨日発生した新型コロナの患者さんの後, 発症した患者さんはなく, 今のところ感染の拡大はありません.

8時半に講堂に集まって, 朝のカンファランスを行いました. 今日は自分が担当であったので, 最近続い腕や脚に発生した神経鞘腫の手術について, まとめて発表しました. その後, 来週予定している手術についてのカンファランスを行いました. 来週は10件の手術を予定しています.

9時前に外来に降りて, 27人の患者さんの診療を行いました. 9時過ぎに高齢者施設に入所中の超高齢者が昨日転倒して, 大腿骨転子部骨折を受傷されたので, 診てもらいたいという電話が先輩医師の整形外科クリニックから来ました. これから受診していただくように返事しました.

大腿骨.頚部骨折のAO/OTA分類.

10時半過ぎに100歳近くの超高齢患者さんが, 救急車で搬送されて来られました. X線写真を診たところ, 正確には大腿骨転子部骨折ではなく, 頚部・頚基部骨折でした. AO/OTA分類では, 31B2.3のtranscervical shear fractureに該当します(上図中右).

Pauwels分類の混乱

大腿骨頚部骨折のPowels分類.

引用元:Shen M. An update on the Pauwels classification. J Orthop Surg Res. 2016.11. 

大腿骨頚部骨折の骨折部の安定性の評価には, Pauwels分類が広く用いられています. 件の患者さんは, 骨折線の角度が50 °以上のType III(上図右)でした.

Type Iは, 骨折線の角度が30°未満のタイプで, 体重をかけたときに骨折部がズレるような力が加わらず, 圧迫力がかかるので, 必ずしも手術が必要ではありません. 自分が受傷した非転位型の大腿骨頚部骨折もこれに該当します(上図左, 下図Figure 2.左).
Type IIは, 骨折線の角度が30°以上50°未満のタイプで, 体重をかけると骨折部に縦方向の剪断力がかかって, 骨折部がズレやすくなるため, 骨折部を固定する手術が必要となります(上図中, 下図Figure 2.中).
Type IIIは, 骨折線の角度が50°を超えるタイプで, 体重をかけると骨折部に剪断力の他に, 内反する(大腿骨頭が下に折れ曲がる方向に)力が加わるため, 骨折部が非常にズレやすくなります(上図右, 下図Figure 2.右).

大腿骨頚部骨折に対する大腿骨転子下外反骨切り術の方法.

引用元:Raaymakers ELFB. Non-union of the femoral neck: Possibilities and limitations of the various treatment modalities. Indian J Orthop. 2008. 42.

Type IIIIに対しては, 剪断力を軽減させるために大腿骨頚部が立つように大腿骨転子下外反骨切り術という手術を行うと記載されています(上図). なお, 現在では, この骨切り術は, 新鮮な大腿骨頚部骨折に対して行われることはほぼなく, 大腿骨頚部骨折後に骨がつながらずに偽関節となってしまった場合に行われます. 現在では, Type IIIに対しては, 骨折部を器械でつなぎ合わせる骨接合術か大腿骨人工骨頭挿入術が行われます.

Pauwelsのオリジナルの書籍(Pauwels F. Der Schenkelhalsbruch, ein mechanisches problem. Stuttgart: F.Enke; 1935.)の原図.
上図右では, 骨折角度が70°の場合の力学的分析結果が記述されており, ここからPauwls分類Type IIiは骨折部の角度が70°以上と誤認されたようです.

引用元:Nowakowsk AM. Classification of femoral neck fractures according to pauwels: interpretation and confusion-Reinterpretation: a simplified classification based on mechanical considerations. J Biomed Sci Engineering. 2010. 3.

なお, Pauwels分類Type IIIの骨折線の角度については, 70°以上と記載されている論文が複数あります. AO/OTA分類でも. Pauwels 3(>70°)と記載されています.

間違った角度が広まっている原因として, Shen M. An update on the Pauwels classification. J Orthop Surg Res. 2016. 11.には, 原文がドイツ語であったため, 英語に翻訳される際に誤訳された後, 多くの引用者が誤訳された英語の論文を引用したためであると記述されています. また, オリジナルの書籍の図の力学的分析図に骨折部の角度が70°と記載されていたのも原因のひとつであるようです(上図右).

Pauwelsの書籍(Pauwels F. Atlas zur Biomechanik der gesunden und kranken Hüfte. Berlin, Springer, 1973.)の原図.

引用元:Bartoníček J. Pauwels’ classification of femoral neck fractures: Correct interpretation of the original. J Orthop Trauma 2001. 15.

この点について, Bartoníček J. Pauwels’ classification of femoral neck fractures: Correct interpretation of the original. J Orthop Trauma 2001. 15. では, 正しい分類は, Degree Iが30°未満, Degree IIが30°以上50°未満, Degree IIIが50°以上と明確に記載しています.

午後の病院での仕事

患者さんのご家族への説明, 入院後の指示出し等で時間が14時半までかかりました.

14時半過ぎに自分の部屋に戻ってランチを摂りました.

15時半から病棟の仕事を片付けました.

16時から, 病棟看護師, リハビリスタッフ, 社会福祉士, 管理栄養士と一緒に回診を行いました. 入院患者さんは80人, 自分が主治医となっているのは36人でした.

消防救急業務連絡協議会

18時から消防業務連絡協議会という会議があったので, 会場のビルに移動しました. 年1回, 行政, 医師会, 救急国事病院などが集まって, 市内の救急医療について協議する会議でした.

今回は, 病院の代表として参会しました.

救急車の搬送数が年々増加しており, 10年前の1.4倍に達していること, 搬送患者の2/3が65歳以上の高齢者であること, 搬送された患者の半数が軽症で, 入院を必要としないことなどの問題点が話し合われました. 今後, 高齢者の増加にともなって, 益々増えることが予想されますが, 軽症患者に対しては, 適正な救急車の利用をさらに宣伝することや, 入院しなかった患者さんから選定療養費の徴収を検討することなどを話し合いました.

19時に会議を終了して, 次の講演会の場所に徒歩で移動しました.

講演会と臨床研究のキックオフミーティング

19時から講演会があったので, 会場に移動しました.

当院にも診療の応援に来ていただいている大学教授の主催で, T大学の准教授の先生による講演会でした. 新たな医療器機の開発に関する医学部と工学部の連携とそれによってできた医療器機のお話しで, 非常に興味深い内容でした.

20時過ぎに講演会を終えて, その後, ご講演いただいた先生と, 大学の教授, 准教授と私とで, 料理店で懇親会を行いました.

ご講演いただいた先生が開発した新しい医療器械を使った臨床研究を当院で行う予定になっています. 大学病院には置く場所がないとのことで, 当院に研究参加の要請があり, 引き受けることにしました. 現在, T大学の倫理委員会で審議中ですが, それをパスしたら, 今年中に当院に医療器械が搬入されて研究が始まります.

22時過ぎまで美味しいお料理とお酒をいただきながら, 研究の話などで話が弾みました.

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