手術日+471日目 2025/6/13(金)(骨化性筋炎)

午前の病院での仕事と骨化性筋炎疑いの患者

今日は, 雲ひとつない快晴でした.

昨晩は, 当院が整形外科の救急輪番担当で, 大腿骨骨折の超高齢患者さんを入院させますとの連絡が昨晩後輩の整形外科医からあったので, 早めに出勤しました.

8時前に病棟に上がって, 電子カルテを確認しました. 大腿骨がほぼ中央で横に折れていました. 自宅の中で転倒して骨折したと記載されていました. 通常, 骨粗鬆症があっても, 大腿骨が中央で真っ二つに折れることはないため, 何らかの原因で骨の強度が低下して骨折する病的骨折を疑いました. 後輩医師が記載したカルテには, 既往歴の所に乳癌と書いてあったので, 乳癌が大腿骨に転移して, その結果骨折を生じたのではと考えました. また, 乳癌の患者さんは, アロマターゼ阻害薬という抗腫瘍薬を内服していることが多いので, この薬の副作用である骨粗鬆症も影響しているのではないかと考えました.

8時から後輩医師と一緒に朝の病棟回診を行いました. 大腿骨骨幹部骨折で入院された高齢患者さんの病室を訪問すると, 大腿骨にワイヤーが刺し込まれて, それを重りで引っ張って, 骨折部を安定化させる直達牽引という治療が行われていました.

いつ乳癌で治療したのか聞いて診ましたが, 認知症があって, 判らないとのことでした. 詳しい病状が判らないため, 治療を担当している他院の外科の担当医に情報提供をお願いする照会の手紙を書きました.

カンファランスがあるので, 8時半に講堂に上がって, 昨日作成したスライドを使って, 発表しました. 今回は, 先週当院で始まった『ロボティックアーム人工膝関節手術について』でした. その後, 来週予定の手術前カンファランスを行いました. 来週は, 6件の手術を予定しています.

9時前に外来に降りて, 34人の患者さんの診療を行いました. 今日も整形外科クリニックから紹介されてこられた新規の患者さんが2人いらっしゃいました. そのうちの一人は, ふとももが腫れて痛みがある高校生でした. 4月下旬にサッカーをプレー中にふとももが痛くなって, 先輩の整形外科クリニックを受診し, X線写真では異常なく, 超音波検査の結果, ふともも前方の筋肉(大腿直筋)の中に出血を認めていました. その後も痛みが続くため, 筋肉損傷部位に骨が形成される骨化性筋炎という病気が疑われて, 紹介されました.

骨化性筋炎は, 損傷を受けた筋肉が修復される過程において, 本来は筋肉の中には存在しないはずの骨が形成されてしまう異常な修復過程のことを言います. 筋炎という名前からは, 筋肉の炎症が想起されますが, 異なります. 原因としては, 筋挫傷(いわゆる『肉離れ』)が最も多く, その他に手術, 火傷, 神経損傷, 慢性的な安静(不動)なども原因となりえます.

症状としては, 痛みを伴う腫瘤(しこり)が筋肉の中に生じ, ときに腫瘍や炎症性疾患と誤認されることが少なくありません. 混同される可能性があります. 部位としては, 下肢の大きな筋肉(特にふともも)に生じることが多いですが, 全身のどこの筋肉にも生じえます.

大腿部に生じた意匠性骨化のX線写真.
初期は, 淡い白い石灰化陰影として写りますが(A), 徐々に白さの濃度が上がって(B), 骨と同じような濃度になります(C).
骨化性筋炎のCT.
初期は, 筋肉よりもやや低濃度の腫瘤の一部に淡い白い石灰化陰影が写り始め(A), 徐々に周辺から骨に変化していき(B), 内部の黒い部分も骨に変化します(C).

引用元:Xia AN. Giant nontraumatic myositis ossificans in a child: A case report. World J Clin Cases. 2022. 10.

骨化性筋炎は, 徐々に病状が変化して, その変化に応じて画像所見が変化するため, 診断が簡単ではありません. 発症初期は, X線写真はCTでは, 筋肉の腫れしか認められないことが多く, MRIでは特徴的な所見がないことから, しばしば, 腫瘍と間違われます. 2週間から6週間くらい経過すると, X線写真やCTで淡い石灰化陰影(白い影)として写るようになります. 6週間から8週間, あるいはそれ以降では, 外側に成熟した皮質骨, 内側に海綿骨というように正常な骨を模した層状構造を有する, 境界明瞭な骨がX線写真やCTで認められるようになります. この病変の周辺で明瞭な骨を認めるようになることをゾーン現象(zoning phenomenon)といいます.

今日の高校生の患者さんは, 受傷から約8週間が経過しており, 大腿直筋にしこりは触れましたが, 痛みは軽くて, X線写真では骨化病変が認められなかったので, 骨化性筋炎ではなさそうと判断しました. 腫瘍でないことを確認するためにMRIを撮像することにしました.

13時に外来診療を終えて, 自分の部屋に戻ってランチを摂りました.

午後の病院での仕事

13時半から後輩医師の執刀で大腿骨転子部骨折に対する臨時手術があったので, 手術部に移動しました.

患者さんは, 入所中の施設の中で転倒された90歳代の超高齢の患者さんでした. 昨年4月に反対側の大腿骨転子部を骨折されて, 他の病院で手術が行われていました. しかし, 骨粗鬆症治療薬は投与されていませんでした.

40分ほどで髄内釘という器械を大腿骨の中に挿入して, 骨折部を固定する手術を行いました.

15時過ぎに外来に戻って, 骨化性筋炎疑いの患者さんのMRIを確認しました. しこりを触れた大腿直筋の中には, 筋肉が傷ついた所見があるだけで, 腫瘍は認められず, 大腿直筋挫傷後の瘢痕(きずあと)と判断しました. 痛みが引くまでは, サッカーを中止して, 紹介元の整形外科クリニックで治療を続けてもらうように, 紹介状の返事を書きました.

16時から病棟看護師, 理学療法士, 作業療法士, 社会福祉士, 管理栄養士と一緒に病棟回診を行いました. それぞれの患者さんの状態, リハビリの進捗状況, 退院時期や退院先について, 情報共有を行いました.

17時前に外来に降りて, 一昨日診療した看護師のこどもさんの診療を行いました. 昨日は1日中手首を痛がって動かせないでいたと看護師さんから聞いていたので, 疑っていた舟状骨骨折がないかどうか, 今日の放課後にMRIを撮像することにして, 予約していました.

橈骨遠位端の不顕性骨折のX線写真(a)とMRI(b).
X線写真では骨折は認められません.
MRIでは, 橈骨遠位端にT1強調画像(右)で黒い線が入っていて, 脂肪抑制下T2強調画像では, 橈骨遠位部の骨の中が白くなっています.

MRIを診たところ, 舟状骨には骨折はありませんでしたが, 橈骨遠位部に骨折の所見があり, 不顕性骨折と診断しました. 手関節は動かせるので, ギプス固定は行うに, 痛みが引くまでの間, 部活のバレーボールを休止するように説明しました.

トレーニングと講演会

18時前に帰宅しました.

18時からWEB講演会があったので, iPhone 16でZoomでログインしました. また, エアロバイクを漕ぐために, 着替えました.

その後, エアロバイクを漕ぎながら, 講演会を聴きました. エアロバイクを1時間漕いだ後は, 汗だくになりました.

iPhoneを持って風呂場に移動して, 入浴しながら最後まで聴講しました.

20時前に講演会が終わって, 夕食を摂りました.

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