東京都多摩老人医療センター(論文発表当時, 現 東京都立多摩北部医療センター)整形外科の下赤隆先生は, 大腿骨頚部骨折に対する保存治療(手術を行わないで治す治療)の治療成績を調べた研究論文(下赤. 大腿骨頸部内側骨折の保存的治療. 整形外科. 1993. 44)の中で, 非転位型の陥入型(impacted fracture)の大腿骨頚部骨折のX線写真正面像を元にtype 1から3の3型に分類されました(下図1. ).
下赤 隆. 大腿骨頸部内側骨折の保存的治療. 整形外科. 1994. 44
- type 1は, 「骨頭が転位していないもの」(橋本の分類では, 「undisplaced subcapital fracture」)
- type 2は, 「骨頭が外反位を示すもの」(橋本の分類では, 「undisplaced abduction fracture」)
- type 3は, 「頸部が骨頭へ全体的に陥入しているもの」(橋本の分類では, 「impacted fracture」)
この分類は, 「橋本の分類(橋本. 大腿骨頚部内側骨折における骨頭のX線学的 ならびに組織学的研究. 日整会誌. 1982. 56. )のtype Iの3つのサブタイプに相当する」と述べられています.
1986年から1992年の間に, 転位のない大腿骨頚部骨折の患者さん42人(男性8人, 女性34人), 年齢61〜90(平均78.3)歳に対して, 保存療法を行われました.
なお, この研究論文にある大腿骨頚部骨折42人という数字は, 今回私が調べた日本の研究論文の中では, 最も多い人数でした(2024/4/20時点, 医中誌Webで(『大腿骨頚部骨折』 OR 『大腿骨頚部内側骨折』)AND 『保存療法』で検索した結果)
引用元 下赤 隆. 大腿骨頸部内側骨折の保存的治療. 整形外科. 1994. 44
保存療法のスケジュールは, 上記図2. の通りで, 下記のような内容です.
- 入院してから最初の1週間は, 患部の固定や牽引(骨折した脚を重りをつけて引っ張る処置)を行わずに, 絶対安静は強制しないようにして, ベッドの上で安静を保ちます.
- X線写真で変化がなくて, SLR(straigt leg raising: 自動下肢伸展挙上=自分の力で脚を真っ直ぐに伸ばした状態で持ち上げる動作)を痛みがなくてできるようであれば, 2週間目から坐位(座る姿勢)と自動運動(自分の力で股関節を動かすこと)を許可します.
- 3週間目からは, 免荷(骨折した側の脚に体重を掛けない)で車椅子に乗って移動したり, 立位訓練(立つ姿勢を保つ練習)を行ったりします.
- 4週間目から歩行器(腕で体重を支えられる歩行用の器械)を使って, 部分荷重(体重よりも軽い重さを脚に掛けること)を始めて, 痛みの具合を見ながら徐々に掛ける体重の量を増やしていきます.
- また, 3週間が過ぎて, SLRが不可能な状態でも, 4週間目からは部分荷重を始めます.
- 7週間が過ぎて, 全荷重歩行(全体重を掛けて歩くこと)ができない場合には, 手術療法を行います.
42人の患者さんの大腿骨頚部骨折の分類の内訳は, type 1が3人, type 2が32人, type 3が7人でした.
骨癒合した(骨折部の骨がつながって治った)のは, 32例(76.2 %)でした.
骨癒合が得られなかった10人に対しては, その後に大腿骨頭挿入術が行われました. 10人で骨癒合しなかった理由は, ベッドでの安静期間中に骨折部が転位した(ズレを生じた)患者さんが9人, 6週間過ぎても荷重(体重を掛けた)時の痛みが強かったtype 3の患者さんが1人でした.
Type別に見た, 骨癒合の不成功率は, type 1が0 %, type 2が31.9 %, type 3が42.9 %で, type 3では不成功率が高くなりました.
骨癒合が成功した32人と骨癒合が得られなかった10人との間で, 大腿骨頭の整復の程度(Garden’s alingnment index)を調査した結果, 骨癒合が得られなかった患者さんでは, 股関節X線写真前後像(上表1. の正面像)ではalignment index(正常は160)に差はありませんでした. 一方, 股関節X線写真側面像(上表1. の軸射像)では, 骨癒合成功群にくらべて, 人工骨頭置換術移行群(不成功群)では, alignment index(正常は180)が明らかに小さい(大腿骨頭が後方に傾いている)ことが分かりました.
Garden alignment indexについては, 以下の記事を参照下さい.
骨癒合した後に大腿骨頭壊死を生じたのは2人(6.3 %)で, 2人ともtype 2でした. 大腿骨頭壊死を生じたと判断された時期は, 受傷から4カ月後と7カ月後でした.
この論文を読んでから, 保存療法でも6週間で全荷重を開始するのであれば, 手術療法を行った場合は, 長期間の免荷は必要ないのではないかと考えて, 手術から7週間経った日から荷重を増やし始めることにしました.
なお, 自分が負った大腿骨頚部骨折は, 下赤先生の分類では, type 2に該当します. Type 2では, 保存療法を行うと, およそ1/3で骨癒合が不成功となることから, 手術療法を選択したのは間違っていなかったと判断しました. ただし, 骨癒合した後に, 大腿骨頭壊死を生じたのは, type 2の患者さんだけだったという結果には, 心配になりました.
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